今回は1966年6月、壮絶なる日本ツアー直前に録音された、「Coltrane Live At The Village Vanguard Again!」です。
タイトル的には、1961年11月に録音された、エリック・ドルフィー(Eric Dolphy)入りの「Coltrane “Live” At The Village Vanguard (Impulse! A-10)」再び!という感じですか。
1961年版はドルフィー効果か、あっけらからんとしたアヴァンギャルドな演奏が多いですが、
1966年版は「Live In Japan」同様、絶叫というか振り切れた演奏です。
以下、長くなりますが、「Coltrane Live At The Village Vanguard Again!」に至るコルトレーンの音楽的変質の謎が、自分なりに納得出来たので、当時の時代背景含め書いていきます。
「1961年版」と「1966年版」。
5年隔てたライブが、何故こんなに変貌してしまったかの鍵は、当時アメリカの国内情勢を紐解くことで見えてくる気がします。
まずコルトレーンの作品群を眺めていると、1965年2月付近で変質していく事に気がつきます。
「至上の愛(A Love Supreme)」で、神を賛美してたコルトレーンが突然、「Kulu Se Mama」、「Ascension」など、フリーフォームに転進した作品を発表。
アフリカ回帰、インド思想への傾倒を顕著にした、激情的雄叫びを上げ始めるようになります。
アメリカの歴史に詳しい方ならピンとくるかもしれませんが、そうです、黒人公民権運動活動家・「マルコムX (Malcolm X)暗殺」を境に、激変していく訳ですね。
ムスリムの「マルコムX」が暗殺された事により、自ら信じるキリスト教への疑問を感じ始めた?
キリスト教を一旦横に置いて、「愛と平和」を求め、他宗教に目を向け始めたとも言えますか。
さて、1966年5月28日のヴィレッジ・ヴァンガードでのライブを収録した「Coltrane Live At The Village Vanguard Again!」の収録曲は、たった2曲(笑)、「Naima」と「My Favorite Things」だけ。
1965年末の録音(Meditations)で、宗教臭い演奏に嫌気が差したピアノのマッコイ・タイナーが退団したため、1966年初頭からバンドに参加した、アリス・コルトレーンがピアノを弾いております。
ドラムも、前衛派でサン・ラ(Sun Ra)との共演経験があるラシッド・アリ(Rashied Ali)に代わってますね。
1曲目は、お馴染み「Naima」。
ライブでラヴィ・シャンカール(Ravi Shankar)の教え、「(静寂(シャンティ)」と「安らぎ」が感じられる演奏です。
途中ソロで登場するファラオ・サンダースの咆哮が、全てをぶち壊しますが(笑)。
思索的な静(コルトレーン)と、激情なる動(サンダース)のコントラストが、最晩年でのコルトレーンバンドの、大きな特徴なのかもしれません。
「Live In Japan」の如く静と動のバランスが崩壊すると、聴くにたえない状態になりますが、ここでの演奏は、ぎりぎり均等を保ってる感じかと。
レコード時代にはA面最後になりますが「My Favorite Things」の前に、「Introduction To My Favorite Things」と題されたジミー・ギャリソンのベースソロが、6分ほど収録されてます。
2曲目は、スピリチュアルな演奏に変貌した「My Favorite Things」。ベースソロに続いたコルトレーンがテーマを吹き始める前、ソプラノサックスで、幻想的というか、摩訶不思議なフレーズを紡いでいきます。
悲痛な叫びを上げるサンダースのバックで、コルトレーンが吹く、フルートの音が聴こえます。
このアルバムでコルトレーンは、バスクラリネットも吹いてるみたいですが、どの部分がバスクラリネットなのか未だ判断出来てません(泣)。
ただ、いずれの楽器も1961年版に参加してたエリック・ドルフィーの遺品らしいです。
John Coltrane – Coltrane Live At The Village Vanguard Again! (1966)
Impulse! A-9124
John Coltrane (ss, ts, bass-cl, fl) Pharoah Sanders (ts, fl)
Alice Coltrane (p) Jimmy Garrison (b) Rashied Ali (ds) Emanuel Rahim (per)
May 28, 1966 at “Village Vanguard”, NYC.
01. Naima (John Coltrane) 15:12
02. Introduction To My Favorite Things (Jimmy Garrison) 6:11
03. My Favorite Things (O. Hammerstein II, R. Rodgers) 20:23
<「Coltrane Live At The Village Vanguard Again!」録音の頃(抜粋)>
◎1964年12月9日(38歳)「A Love Supreme」1回目のセッション。
◎1965年2月18日、「The John Coltrane Quartet Plays」1回目のセッション。
▲1965年2月21日(マルコムX (Malcolm X)暗殺される)
◎1965年5月17日、「The John Coltrane Quartet Plays」2回目のセッション。
◎1965年5月26日、「Transition」1回目のセッション。
◎1965年6月10日、「Transition」2回目、「Kulu Se Mama」1回目のセッション。
◎1965年6月16日、「Kulu Se Mama」2回目のセッション。
◎1965年6月28日(38歳)、「Ascension」レコーディング。
◎1965年10月01日(39歳)「Om」レコーディング。
◎1965年10月14日、「Kulu Se Mama」2回目のセッション。
◎1965年11月23日、「Meditations」レコーディング。
◎1966年2月2日、「Cosmic Music」セッション(コルトレーン・パート)。
◎1966年6月28日、「Coltrane Live At The Village Vanguard Again!」録音。
◎1966年7月8∼25日(39歳)日本ツアー
◎1967年2月15日(没年、40歳)遺作「Expression」1回目のセッション。
◎1967年7月17日(没年、40歳)肝臓癌で昇天(死去)。
<補足>
マルコムXやキング牧師らが大きな影響を与えた、アフリカ系アメリカ人公民権運動(African-American Civil Rights Movement)は、1950年代から活発化。
1960年代後半には「怒り」のエネルギーとなり、アメリカ全土を覆い尽くしていたようです。
そんな中、1965年2月21日には、黒人公民権運動活動家・マルコムX (Malcolm X)が、教団指導者の不逞を理由に脱退した、イスラム教系教団(NOI)の信者達により、銃で撃たれ暗殺されます。
コルトレーンのディスコグラフィを眺めると、分岐点となる2月21日前後に、「The John Coltrane Quartet Plays (Impulse! A-85)」セッションが挟まってます。
6月10日、「Transition」と「Kulu Se Mama」に分散収録されたセッションでは、マルコムX追悼と思われる「組曲」を録音しておりますね。
ちなみに、ネーション・オブ・イスラム教団(NOI)は、黒人の経済的自立を目指す社会運動で、白人社会への同化を拒否し、黒人至上主義を掲げる宗教運動だそうです。
黒人公民権運動活動家・マルコムX (Malcolm X)は、ネーション・オブ・イスラム (NOI) のスポークスマンを経て、ムスリム・モスク・インク (Muslim Mosque, Inc.) 及び、アフリカ系アメリカ人統一機構 (Organization of Afro-American Unity) の創立者。
1965年2月21日、裏切り者として暗殺対象とされた、NOIの信者達に銃で暗殺される。