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混沌と瞑想の狭間へ「John Coltrane – Meditations (1965)」

60年代後半、黒人公民権運動活動家・マルコムX (Malcolm X)暗殺を境に、アフリカ系アメリカ人の暴発寸前の熱い思いと共鳴し、絶叫し続けたコルトレーン。

かつてのボス、マイルス・デイヴィスの言葉から端折って引用すると、「特に若い知識層や革命論者の間では、トレーンが音楽で彼らの気持ちを代弁し、シンボル的存在だった」そうです。

John Coltrane - Meditations (1965)

今回ご紹介する「瞑想(Meditations)」は、そんなコルトレーンが奏でる混沌と瞑想の狭間にある、神秘的というか「静寂と安らぎ」入り混じる、摩訶不思議なセッション。

アフリカ回帰を前面に打ち出した「Kulu Se Mama」から約1ヶ月後の録音ですね。

黄金のカルテットに加え、テナーサックスのファラオ・サンダース(Pharoah Sanders)、ドラムのラシッド・アリ(Rashied Ali)を加えた編成で演奏されます。

さて。ずらっと並ぶ曲には、宗教色、精神性を前面に打ち出した題名が並んでおります。

1曲目は、「父なる神・御子キリスト・聖霊(The Father And The Son And The Holy Ghost)」と題された曲。

「父」、「息子(イエス・キリスト)」、「聖霊(聖神)」は全て同じであり、一つである、というキリスト教の基本となる教え、三位一体(至聖三者)の事らしいです。

題になぞられ、左右に分かれた2テナーが同時にソロを展開。

そこにリズム隊を加える事で、音楽による「三位一体」を表現したかったのか?

約13分に渡り、聖邪入り混じるかのような、混沌とした音の洪水が続きます。

「Om(阿吽)」を聴いたラヴィ・シャンカール(Ravi Shankar)に、解釈の間違いをたしなめられたコルトレーンですが、師の諭しを忘却したが如く、「Om(阿吽)」路線の過激な演奏を繰り広げます。

2曲目「慈悲(Compassion)」は、サイケデリックな瞑想といった雰囲気の曲。定型ビートで時々、鈴のような音鳴り響く中、マッコイ~コルトレーンとソロが引き継がれます。

3曲目「愛(Love)」は、ベースソロから始まる、穏やかな雰囲気の曲。

4曲目「威厳(Consequences)」は、前曲の静寂をぶち壊すかのように、左右に分かれた2テナーによる絶叫が続きます。

続くマッコイも、穏やかながらも、せわしないピアノソロを展開。

5曲目アルバム最後を飾る「静寂(Serenity)」は、前のピアノソロを引き継いで、コルトレーンの瞑想的ソロが展開されます。

コルトレーンが考えてた「瞑想(Meditations)」とは、どのようなものだったのか。
多分、コルトレーンも他人に説明出来るほど、深く考えていなかったものと推測します(笑)。

とりあえず頭を空っぽにして、混沌と渦巻く音の洪水に、しばし浸かってみるのも一興かと。

John Coltrane – Meditations (1965)
impules! AS-9110

01. The Father And The Son And The Holy Ghost (John Coltrane) 12:49
02. Compassion (John Coltrane) 6:49

03. Love (John Coltrane) 8:08
04. Consequences (John Coltrane) 9:11
05. Serenity (John Coltrane) 3:30

John Coltrane (ts, per) Pharoah Sanders (ts, tambourine, bells)
McCoy Tyner (p) Jimmy Garrison (b) Rashied Ali (ds) Elvin Jones (ds)
November 23, 1965 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ.

<「Meditations」録音の頃(抜粋)>

◎1964年12月9日(38歳)「A Love Supreme」1回目のセッション。

◎1965年6月10&16日(38歳)、「Kulu Se Mama」1回目のセッション。

◎1965年6月28日、「Ascension」レコーディング。

◎1965年10月01日(39歳)「Om」レコーディング。
◎1965年10月14日、「Kulu Se Mama」2回目のセッション。

☆1965年11月23日、「Meditations」レコーディング。

◎1966年2月2日、「Cosmic Music」セッション(コルトレーン・パート)。

◎1966年6月28日、「Coltrane Live At The Village Vanguard Again!」録音。

◎1966年7月8∼25日(39歳)日本ツアー

◎1967年2月15日(没年、40歳)遺作「Expression」1回目のセッション。
◎1967年7月17日(没年、40歳)肝臓癌で昇天(死去)。

「John Coltrane – Kulu Se Mama (1966)」-静寂と安らぎ-

混沌たる「Ascension(神の国)」及び「Om(阿吽)」の前後に録音されたのが、今回ご紹介する、静寂と安らぎ溢れるアルバム「Kulu Se Mama」です。

John Coltrane - Kulu Se Mama (1966)

アフリカ伝来のサム・ピアノ(親指ピアノ)をつま弾く音を導入したり、「Om(阿吽)」を詠唱したりと、ジャズから逸脱した、混沌極めるアルバム「Om(阿吽)」を録音したコルトレーン(生存時は未発表)。

ライブでラヴィ・シャンカール(Ravi Shankar)に「Om(阿吽)」を披露し、「(静寂(シャンティ)」と「安らぎ」が不足している事をたしなめられたためか、アルバム「Kulu Se Mama」には神秘性というか、「静寂と安らぎ」が加わってるように思えます。

表題曲「Kulu Se Mama」は、パーカッションとボーカルで参加するジュノ・ルイスの作品。

母に捧げた賛歌なんだそうですが、「アフリカ回帰」を目指した曲調で、ゆるめなパーカッションの音色とアフリカの現地語の歌がブレンドされた、「土の香り漂う」ような、穏やかなる曲です。

蛇足ですがこの曲、アート・ブレイキーがブルーノートに録音した、
「Art Blakey – Orgy in Rhythm (Blue Note)1957」、

「Art Blakey – Holiday for Skins (Blue Note)1958」、

「Art Blakey – The African Beat (Blue Note)1962」と続く、

アフリカ回帰的なドラムアンサンブルの作品群に、傾向が近い感じがします。

続く2曲目「Vigil」は、テナーサックスのコルトレーンと、ドラムスのエルヴィンによるデュオ。
9分半にも渡り、2人だけの丁々発止なやりとりが続きます。

3曲目「Welcome」は、穏やかなるバラッド風な演奏。これこそ「静寂と安らぎ」ですね。

1975年にマイケル・カスクーナ(Michael Coscuna)が編纂したコンピレーションアルバム「The Gentle Side Of John Coltrane」にも収録されてます。

John Coltrane – Kulu Se Mama (1965)
impulse! A-9106

01. Kulu Se Mama (Juno Se Mama) (Julian Lewis) 18:50
02. Vigil (John Coltrane) 9:51
03. Welcome (John Coltrane) 5:34

03. Welcome –
John Coltrane(ts) McCoy Tyner(p) Jimmy Garrison(b) Elvin Jones(ds)
June 10, 1965 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ.

02. Vigil –
John Coltrane(ss, ts) Elvin Jones(ds)
June 16, 1965 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ,

01. Kulu Se Mama (Juno Se Mama) –
John Coltrane(ts) Pharoah Sanders(ts) McCoy Tyner(p)
Jimmy Garrison(b) Donald Garrett(b, bass-cl) Frank Butler(ds) Elvin Jones(ds)
Juno Lewis (vo, per)
Western Recorders, Los Angeles, CA, October 14, 1965

<「Kulu Se Mama」録音の頃(抜粋)>

☆1964年12月9日(38歳)「A Love Supreme」1回目のセッション。

◎1965年6月10&16日(38歳)、「Kulu Se Mama」1回目のセッション。

◎1965年6月28日、「Ascension」レコーディング。

◎1965年10月01日(39歳)「Om」レコーディング。

☆1965年10月14日、「Kulu Se Mama」2回目のセッション。

◎1965年11月23日、「Meditations」レコーディング。

◎1966年7月8∼25日(39歳)日本ツアー

◎1967年2月15日(没年、40歳)遺作「Expression」1回目のセッション。

◎1967年7月17日(没年、40歳)肝臓癌で昇天(死去)。