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チャールス・ミンガス「直立猿人(Pithecanthropus erectus)」

今朝の会話の中で、とある曲についての話が出てきたので、解説文もどきをこちらにまとめてみました。

Charles Mingus - Pithecanthropus erectus(直立猿人)

チャールス・ミンガス率いるジャズ・ワークショップが演奏する「Pithecanthropus erectus(直立猿人)」。

チャールス・ミンガスが夢にみた、初めて2足歩行した猿人(ピテカントロプス)の「進化~優越~衰退~滅亡」という過程を、組曲風に1曲にまとめたという風変わりな曲。

前衛的というか、変わってるというか。

まあ、「アメーバ」を題材にした曲作ってた人も居るので、ジャズ界には変人が多いのかもしれませんが。

ジャッキー・マクリーンのフリーキーなトーンは、実は1956年でも披露されていた、という事実に呆然としてしまう訳でございますな。

ユニークな奏法で私も大好きな、相方J.R. モンテローズの怪演も聴き処。

Charles Mingus – Pithecanthropus erectus(直立猿人)
Atlantic LP 1237

Jackie McLean (as) J.R. Monterose (ts)
Mal Waldron (p) Charles Mingus (b) Willie Jones (ds)
Audio-Video Studios, NYC, January 30, 1956

Pithecanthropus Erectus: Evolution / Superiority-Complex / Decline / Destruction



ちなみに前述の、ハービー・ニコルズ(Herbie Nichols)の「Amoeba’s Dance」という曲はこんな感じです。
変わったもの大好きな、アルフレッド・ライオンのブルーノートから発売された10インチアルバムから。


ヨレ気味だからこそ聴きやすい遺作「John Coltrane – Expression (1967)」

肝臓癌由来の痛みをこらえつつ演奏を録音し、発売の手配を続けた「Expression」は、ヨレ気味な演奏ゆえ、過激な部分がナリを潜め、聴きやすくなったのは皮肉な話ですな。

ラヴィ・シャンカールが説く「静寂」と「安らぎ」が具現化したようなアルバムです。

John Coltrane - Expression

<突然の容態悪化、そして昇天>

1967年7月15日(土)まで、妻や親族、音楽仲間にさえ容態の悪化を覚られないまま、具合の悪い状態でコルトレーンは活動を続けていたそうです。

自宅の地下室のスタジオを作り、最新録音機材まで揃え、何故、何事もないように活動を継続するそぶりを見せていたのか・・・。

前兆として、1967年 5月に内臓の激痛により倒れていたそうですが・・・。

そして、コルトレーン生涯最後、日曜日の朝を迎えます。

1967年7月16日(日)、日曜日の朝。食事が取れないほど衰弱したため、ハンティントン病院に救急患者として入院。

そして翌日7月17日(月)午前4時、肝臓癌により昇天(死去)。

音楽仲間、そして公民権運動のシンボルとして見ていたアフリカ系アメリカ人達に、突然の喪失感と、衝撃が走ります・・・。

<遺作「Expression (impulse! A-9120)」>

今回ご紹介する「Expression」は、1967年冬から春にかけて録音された作品。
ジョン・コルトレーンのスタジオ録音・最終作(遺作)であり、「平和と愛」を探求するかの如く、スピリチュアルな演奏であります。

タイトルの「Expression」は、日本語では
「(気持ち・性格などの)表われ、しるし」という意味だそうで。

ここ最近のブログ記事で延々書いている通り、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)が残した作品群のうち、最晩年にあたる1965年から1967年の録音は、公民権運動の高まりと呼応して、激流の如く変化していきました。

モード奏法の追求から、公民権運動と連動した激情的フリー的演奏、そして、ラヴィ・シャンカールを師と仰ぎ「平和と愛」を探求するスピリチュアルな演奏へ。

さて、「Expression」の収録曲をざっと紹介致します。

1曲目「Ogunde」は、短い幻想的なバラッド。

2曲目「To Be」も幻想的で浮遊感溢れる曲。
コルトレーンのフルートと、ファラオ・サンダースのピッコロが絡んだ後、ピアノソロの後ろで、誰が叩いてるかわからない鈴やボンゴが鳴り響きます。
コルトレーンはフルートの音に声を混ぜ、フルートソロを展開してますね。

3曲目「Offering」は、ややアグレッシブな演奏。
イントロは「A Love Supreme, Pt. 1: Acknowledgement」の変形パターンか。
病魔に冒されたコルトレーンが最後の気力を振り絞り、弱弱しく、テナーを吹こうとしてる様子がありありと思い浮かべられます。

4曲目「Expression」は、自らの昇天を予感しているかのような、清々しい演奏。
延々、激烈な演奏を聴いた耳には、かなりよれよれで弱ってる感じが痛々しいですね。
コルトレーンに続くアリスとサンダースがその分、頑張ってますが・・・。

John Coltrane – Expression (1967)
impulse! A-9120

01. Ogunde (John Coltrane) 3:32
02. To Be (John Coltrane) 16:29

03. Offering (John Coltrane) 8:31
04. Expression (John Coltrane) 10:56

1, 4 –
John Coltrane (ts) Alice Coltrane (p) Jimmy Garrison (b) Rashied Ali (ds)
March 7 & spring 1967 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ.

2, 3 –
John Coltrane (fl,ts) Pharoah Sanders (piccolo) Alice Coltrane (p)
Jimmy Garrison (b) Rashied Ali (ds)
February 15, 1967 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ.

このアルバムでは、珍しくフルートを吹いてますが、これ、1964年にヨーロッパで客死した、盟友・エリック・ドルフィー(Eric Dolphy)の遺族から譲渡された遺品だそうです。

<「Expression」に至る過程(抜粋)>

◎1964年12月9日(38歳)「A Love Supreme」1回目のセッション。

◎1965年5月26日、「Transition」1回目のセッション。
◎1965年6月10日、「Transition」2回目、「Kulu Se Mama」1回目のセッション。
◎1965年6月16日、「Kulu Se Mama」2回目のセッション。
◎1965年6月28日(38歳)、「Ascension」レコーディング。
◎1965年10月01日(39歳)「Om」レコーディング。
◎1965年10月14日、「Kulu Se Mama」2回目のセッション。
◎1965年11月23日、「Meditations」レコーディング。

◎1966年7月8∼25日(39歳)日本ツアー

☆1967年2月15日(没年、40歳)遺作「Expression」録音。

◎1967年7月17日(没年、40歳)肝臓癌で昇天(死去)。