今まで怖くて聴かなかった、フリージャズやってた頃の(後期)コルトレーンを最近、まとめて聴いておりました。
各種文献・資料を漁り、世界的ジョン・コルトレーン研究家・藤岡靖洋さんの書くライナーノートに目を通し、時代背景とコルトレーンの私生活を理解する事で、ようやく、過激な演奏に突っ走ったのか理解出来るようになってきました。
「怒る」初期から、「叫ぶ」晩年へ。
「叫ぶ」ような、強烈なるビブラートを掛けた晩年の演奏は、「アフリカ回帰」とか、「Love and Peace」などというお題目の影で、迫り来る死への恐怖と、癌に蝕まれた体の痛みをこらえながら演奏してた、と仮定すると、妙に合点が行く気がします。
さて、母方の祖父が牧師という環境に育ったジョン・コルトレーン(John Coltrane)は、1960年代後半に、神に捧げた組曲「至上の愛(A Love Supreme)」という大傑作を録音します。
その半年後、以前から興味を示してた「フリージャズ」に手を染めます。
この時代は、アフリカ系アメリカ人達が、奴隷時代から続く人種差別に対し、猛然と抗議の声を上げ始めた時代でもありますね。
ジョン・コルトレーンがフリージャズを演奏した最初のアルバムだと認識されるのが、1965年6月に録音した「Ascension(邦題:神の園)」です。
そのまま和訳すると「上昇、キリストの昇天」という意味だそうで、「至上の愛」に続き、キリスト教をイメージさせるタイトルですね。
発表当時、日本のジャズ誌では「世紀の問題作」として、大論争が巻き起こった模様。
ジャーナリズム的には、論争巻き起こすほどの、おいしいネタだったんでしょうね。
フリージャズの創始者・オーネット・コールマン(Ornette Coleman)の「Free Jazz (1961) Atlantic」に影響されちゃって、大編成でフリー風味な即興演奏を試してみた作品、とでも言っておきますね。
しかしこのアルバム、前述の通り「世紀の問題作」とかジャズ雑誌等に書かれているので長年、避けて(笑)いたのですが、聴いてみると全然、許容範囲な演奏だったりします。
壮絶なる「Live In Japan」とかの方が、よっぽど問題作だわー(笑)。
要するに、「フリージャズ」としては、とーっても聴きやすい作品だと思います。
という事で「Ascension」はどんな作品かと問われれば、「至上の愛」で頂点を極めた「モード」演奏から、新たなる「フリー」な演奏に移行する途中の模索、というか「習作」という位置付けではないかと。
編成は「黄金のカルテット」に、トランペット奏者を2人、サックス奏者を4人、ベーシストを1人を加えたもの。
さて、今回聴いているのは、演奏時間から推定するに「Ascension [Edition II]」だと思われます。
中身はというと、全員がアンサンブルというか集団即興を行うパートに続き、約2分ほど「ドラム」対「ソロ奏者」の果し合いが続く、という印象。しかも延々、約40分も(笑)。
熱狂的なホーン奏者7人のソロが終ると、ピアノ、ベースのソロが続きます。
ドラムのエルヴィンはもちろん、最初から最後までシンバル叩きっぱなし・・・。
先発はもちろん、リーダーのジョン・コルトレーン(John Coltrane)。
ソロ吹き出したものの、試行錯誤の途中で集団即興の波が押し寄せて時間切れ(笑)。
2番手はトランペットのディウェイ・ジョンソン(Dewey Johnson)は、マイルドなウディ・ショウ、といった感じのソロフレーズを繰り出します。
3番手のテナーサックスのファラオ・サンダース(Pharoah Sanders)はと言うと、恒例(笑)の叫びのような雄叫びを上げ続け・・・。
アンサンブルの混沌の中から颯爽と登場するトランペットのフレディ・ハバード(Freddie Hubbard)。4番手として切れ味鋭いソロで応酬・・・オーネットの「Free Jazz」に参加して慣れてるのかな。
5番手のアルトサックスのジョン・チカイ(John Tchicai)は、ジャッキー・マクリーンにも似たフレーズをかなりマイルドなトーンで披露。
20分経過、演奏も半ばに差し掛かり、ドラムの合図で喧騒が幻想に代わる中、6番目のソロとしてテナーサックスのアーチー・シェップ(Archie Shepp)が登場。
中音域をメインに、強烈なビブラートでソロ吹き散らかしていきます。
管楽器奏者最後に登場するのは、アルトサックスのマリオン・ブラウン(Marion Brown)。
比較的明るく明快なフレーズで、オーネット・コールマン的というか、マクリーン風の「滝から崩落する水しぶき」とでも形容したくなる下降フレーズを連発します。
ホーン奏者の喧騒的演奏が全部終ると、ピアノのマッコイ・タイナー(McCoy Tyner)が登場。
乱れず崩れず、いつものペンタトニック(?)フレーズでベースに引継ぎます。
ベースのアート・デイヴィス(Art Davis)とジミー・ギャリソン(Jimmy Garrison)は、それぞれ弓弾きと指弾きを使い分けた短いソロを聴かせてくれます。
最後のアンサンブルは、混沌としてテーマフレーズがどれなのかすら判別不能(笑)。
このセッションの時、エルヴィン・ジョーンズが、演奏後にすねて「(もう)やってらんねーよ!」と叫び、スタジオを出て行ったという逸話があるそうです。
ホーン陣と丁々発止散々のやりとりを40分延々繰り広げれば、嫌になるわなあ・・・。
野獣エルヴィンのパワフルなドラムに手を焼いたコルトレーンが、「Free Jazz」を参考にホーン奏者の加勢を呼んで、集団でいたぶってみた・・・、という裏話が成立しそうな気がしたり・・・。
ちなみにパワフルで混沌としたこの「Ascension」録音した翌月7月、フランスで録音されたライブ音源には、タイトルを「Blue Valse (Blue Waltz)」とした、「Ascension」のカルテットバージョンが登場します。
演奏はというと、すっきりしたテーマ演奏後、「Eb minor」一発でアドリブやってるらしいです。
John Coltrane – Ascension (1965) Impulse! Records A-95
Freddie Hubbard (tp) Dewey Johnson (tp) Marion Brown (as) John Tchicai (as)
John Coltrane (ts) Pharoah Sanders (ts) Archie Shepp (ts)
McCoy Tyner (p) Art Davis (b) Jimmy Garrison (b) Elvin Jones (ds)
June 28, 1965 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ.
01. Ascension [Edition II] (John Coltrane) 40:27
参考までに「Ascension Edition I」の演奏はこちら。
<「Ascension」録音までの経過(抜粋)>
1964年02月、ハーフ・ノートにて、カルテットにオーネット・コールマンがトランペットで客演。
1964年06月、エリック・ドルフィー、糖尿病の悪化と心臓発作によりベルリンで客死。
1964年08月、アリスとの第1子誕生。
1964年12月、黄金のカルテットによるベストセラー「至上の愛(A Love Supreme)」録音。
1965年02月、「Chim Chim Cheree」を収録した「The John Coltrane Quartet Plays」録音。
1965年06月、「Kulu Se Mama」第1回目の録音(Vigil, Welcome)。
1965年06月、発表当時「世紀の問題作」と評された「Ascension」録音。